なぜギャンブルにハマるのか?当たるとゆがんでしまう「人の性」を解析すると…<ドキ時(ドキ)!サイエンス>(23):東京新聞 TOKYO Web
ギャンブルで大当たりした直後は、確率を客観的に評価できなくなり、「もう1回当たりそうだ」と判断しがちになる。そんな研究結果を、筑波大医…
ギャンブルで大当たりした直後は、確率を客観的に評価できなくなり、「もう1回当たりそうだ」と判断しがちになる。そんな研究結果を、筑波大医学医療系の山田洋准教授(神経経済学)らがまとめた。 山田さんは「ギャンブル依存症の発症メカニズムの解明や治療法の開発につながることが期待できる成果だ」と話す。
完全に合理的ではないのが人間 ヒトは経済利益を合理的に計算して行動する。これが伝統的な経済学の前提だった。 例えばギャンブルであれば、当たりの金額とその確率を掛け算して期待値を計算し、最も高いものに賭ける。そうすれば、平均的な利得は最も高くなる。 だが、実際のヒトの行動は、完全に経済合理的ではない。 例えば、宝くじ。日本では法律で還元率は「発売総額の5割以内」と決まっており、1枚300円の宝くじなら期待値は150円以下になる。平均的には損することが確実な賭けだ。それでも多くの人が、高額賞金が当たるかもしれないと考えて、つい買ってしまう。
こうしたヒトの主観(確率判断のゆがみ)を普遍的に説明することに成功したのが、行動経済学の「プロスペクト理論」だ。
「勝ち続けると浮かれる」を科学的に説明できるか ただし、この理論は、ヒトの主観は変わらないことが前提になっている。このため、「賭けに勝ち続けると、浮かれて大胆に賭けるようになる」といった主観の変化は説明できない。 ヒトの判断・行動を説明するもう一つの理論に「強化学習理論」がある。こちらは、過去の報酬経験を踏まえてヒトの主観は変わることを前提としている。 山田さんたちは、この二つの理論を統合すると、ヒトの行動や判断をよりよく説明できるようになると考え、次のようなギャンブル(くじ引き)実験をした。 参加者は共同研究者が所属する豪シドニー大の学生ら72人。目の前にスクリーンを置き、二つの円グラフを並べて映す。円グラフの上側は緑、下側は青で一部が塗られている。青の量は報酬が当たる確率を、緑の量は当たったときの報酬量を示している。<くじの仕組み> 円の上半分はくじで当たる報酬(ヒトはお金、サルはジュース)の量を、下半分はその量の報酬が当たる確率(1枠が10%)を示す。報酬量は緑で、確率は青でそれぞれ塗られた枠数で決まり、左側を選んだ場合は報酬五つが50%の確率で、右側なら報酬二つが90%の確率で当たる。 参加者には、二つの円グラフの意味を理解した上で、どちらかの円グラフを選ぶギャンブルを繰り返してもらった。その行動データを分析したところ、ヒトは、当たりの確率を客観値より高く判断することが分かった。これはプロスペクト理論が予測する通りだった。 だが、さらに分析を進めたところ、予想外に大きな利得が得られた次のくじ引きでは、プロスペクト理論の予測よりも確率を高く評価しがちなことが分かった。大当たり後は「また当たる」と感じやすくなるのだ。こうした主観の変化は、プロスペクト理論と強化学習理論を組み合わせることで説明できた。 山田洋准教授 実は、山田さんたちはヒトに先立ち、円グラフを読み取れるように訓練したサル2匹で同様の実験を行い、ヒトとほぼ同じ結果を得ていた。「サルの脳を調べれば、ヒトが抱く金銭感覚や確率の感じ方に迫れる」(山田さん)ということだ。 サルの実験では、脳に電気センサーを埋め込み、時々刻々と変化する神経細胞の活動も解析した。その結果、期待値を計算しているのは、脳の前頭眼窩(がんか)野中央と腹側線条体(ふくそくせんじょうたい)という部位だと分かった。ヒトの脳でも同じだと考えられる。 学生時代、うれしいときと悲しいときで同じ景色がまるで違って見え、「心とは何か」と考えたことが研究の原点だという。 現在は、価値観が脳で生まれる仕組みの解明を目指す。「実現すれば、多様な価値観を認め合い、より多くの人が幸せを感じられる社会につながるはず。心とは何かが少しでも分かればいい」。山田さんの願いだ。(筑波大教授、サイエンスコミュニケーター・鴨志田公男)=毎月最終月曜日掲載関連キーワード 茨城 主要ニュース 科学 logo-en-hatenalogo-en-twitterlogo-en-facebooklogo-en-line おすすめ情報茨城の新着 記事一覧
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