ギャンブル依存

ギャンブル依存

ギャンブル依存

このページは、ギャンブル依存への当医療センターの取り組みを掲載しています。ギャンブル依存に関する多様な情報をご覧いただけます。

ギャンブルとは

ギャンブルとは、あるものを賭けてより価値のあるものを手にいれる行為をいいます。 勝つか負けるかはほとんど偶然に支配されています。 日本では、競馬、競輪、競艇、オートレースなどの公営ギャンブルや、宝くじ、スポーツくじ、パチンコ、スロットの遊技などがギャンブルにあてはまるでしょう。 全くギャンブルをしない人もいれば、楽しみのためにギャンブルを行う人もいます。たいていの人はこのカテゴリーにあてはまりますが、中には、ギャンブルによって、金銭的な問題だけでなく、個人の生活に影響を及ぼす場合があります。それがギャンブル依存といわれるものです。

ギャンブル依存とは

ギャンブル依存とは、その人の人生に大きな損害が生じるにも関わらず、ギャンブルを続けたいという衝動が抑えられない病態をいいます。勝ちを追い求めて、最後には掛け金をたいてい失ってしまいますが、そのような行為を人に隠したり、貯金を使い果たしてしまったりします。借金が膨らんで、盗みや詐欺行為に手を染めてしまうこともあります。そして、最終的には生活が破綻して、深刻な事態に至ります。

具体的な症状

  • どのように掛け金を手に入れようかと考えたりするなど、いつもギャンブルのことを考えている。
  • 同じ興奮をえるために、掛け金の額を増やしてギャンブルをする。
  • ギャンブルをすることを制限しよう、やめようと試みたが、うまくいかなかったことがある。
  • ギャンブルをやめると、いらいらする、落ち着かなくなる。
  • ある問題から逃れるため、あるいは、無力感、罪悪感、不安、抑うつ気分から逃れるために、ギャンブルをすることが多い。
  • ギャンブルで失ったお金を取り戻すために、別の日にギャンブルをすることがある。
  • ギャンブルへののめり込みを隠すために、家族や周囲の人に嘘をつく。
  • ギャンブルによって、大切な人間関係、仕事、教育や働く機会を危険にさらしたり、失ってしまったことがある。
  • 掛け金を手に入れるために、盗みや詐欺行為をはたらいたことがある。
  • 金銭的な問題からのがれるために、他人にお金を出してくれるように頼んだことがある。

結果、人間関係のトラブル、破産を含む金銭問題、法律問題や違法行為をはたらいたことによる懲役、仕事能率の低下や失業、健康問題、希死念慮や自殺、などの深刻な問題に至ることがあります。

ギャンブル依存のメカニズムについて

ギャンブルをなかなか止められない、しばらく止めていても久しぶりにすると止められなくなる。これには、脳内のいわゆる報酬系などの機能異常が原因と考えられています。 脳内には、「脳内報酬系」と呼ばれる部位があります。我々が感じる、気持ちよさ、ワクワク感、多幸感などは、この部位が働いて生まれます。ギャンブルも、やり始めの頃に大儲けした時など、この部位が強く反応して、ドーパミンという快楽物質が大量に作られ、放出されます。

しかし、ギャンブルをやり続けて依存状態になるにつれて、この部位は快楽に鈍感になり、ギャンブルの勝ちにもだんだん反応しなくなります。こうなると、ギャンブルだけでなく、おいしい食事、お酒、セックスなど本来は楽しいはずのものも、楽しいと感じられなくなっていきます。

一方、依存状態になると、自分がしているギャンブルを連想させる何か (例えば、パチンコの台) を見たり、聞いたりすると、その時だけ脳の一部が強く反応し、「ギャンブルをしたい」という強い欲求に襲われます。 この欲求を満たすためにギャンブルをしても、ドーパミンが放出されないために、この欲求は充分に満たされません。その結果、益々ギャンブルがエスカレートしていくわけです。

さて、このような脳の機能は元の健康な状態に戻るのでしょうか。 研究によると、ギャンブルを断つと、年余の時間はかかるものの、元の状態にゆっくりと戻ってゆくとのことです。しかし、ギャンブルを続けると、益々悪くなっていきます。

ギャンブル依存になりやすい人

ギャンブル依存の原因について、まだはっきりとしたことはわかっていませんが、生物学的要因、遺伝的要因、環境要因が組み合わされて発症している可能性があります。 また、薬物やアルコールと同じように、前述のような脳内の報酬系という神経回路が亢進しているため、という説もあります。

これまでの研究等から、発症に影響を与えうる要因として、以下のようなものがあげられています。

年齢、性別

幼少期や青年期のギャンブル体験は、ギャンブル依存のリスクを高めます。ギャンブル依存は、若い人や中高年によくみられますが、ときに高齢者にもみられます。性別では、男性に多い傾向があります。

性格傾向

ギャンブル依存は性格が原因ではありません。しかし、衝動性の高い人は、高くない人よりギャンブル依存になりやすいと考えられています。

環境要因

ギャンブルを始めた初期に大勝ちした経験がある、ギャンブルにアクセスしやすいなどの環境はギャンブル依存のリスクを高めると考えられます。

家族や友人の影響

家族にギャンブルの問題を抱えている人は、ギャンブル依存のリスクが高まります。

精神疾患

薬物やアルコールなどの物質乱用、抑うつや不安、双極性障害、強迫性障害、ADHD (注意欠陥多動性障害) を抱えている人の中には、ギャンブル依存の問題を抱えている人もいます。

パーキンソン病の治療薬

ドーパミンアゴニストという薬の副作用で、ギャンブル依存がみられることがあります。

ギャンブル依存の診断基準

アメリカ精神医学会の精神疾患の診断基準である「精神疾患の分類と診断の手引き」(DSM-V) において、【ギャンブル障害】として記述されています。 以下、診断基準について記述します。

ギャンブル依存 診断基準

A. 臨床的に意味のある機能障害または苦痛を引き起こすに至る持続的かつ反復性の問題賭博行動で、その人が過去12ヶ月間に以下のうち4つ (またはそれ以上) を示している。

  • 興奮を得たいがために、掛け金の額を増やして賭博をする要求
  • 賭博をするのを中断したり、または中止したりすると落ち着かなくなる、またはいらだつ
  • 賭博をするのを制限する、減らす、または中止するなどの努力を繰り返し成功しなかったことがある
  • しばしば賭博に心を奪われている (例 : 過去の賭博体験を再体験すること、ハンディをつけること、または次の賭けの計画を立てること、賭博をするための金銭を得る方法を考えること、を絶えず考えている)
  • 苦痛の気分 (例 : 無気力、罪悪感、不安、抑うつ) のときに、賭博をすることが多い
  • 賭博で金をすった後、別の日にそれを取り戻しに帰ってくることが多い (失った金を深追いする)
  • 賭博へののめりこみを隠すために、嘘をつく
  • 賭博のために、重要な人間関係、仕事、教育、または職業上の機会を危険にさらし、または失ったことがある
  • 賭博によって引き起こされた絶望的な経済状況を逃れるために、他人に金を出してくれるよう頼む

B. その賭博行動は、躁病エピソードではうまく説明されない。

どのくらいの患者数がいるのか

海外の研究では、一般人口におけるギャンブル依存の有病率は、0.4~2.0%の幅で推計されています。 また、ギャンブル依存まで至らないが、ギャンブルに問題のある人まで含めると、さらに1.3~2.3%増えると推計されています。

日本におけるギャンブル依存の有病率に関する調査はほとんどありませんが、厚生労働科学研究によると、ギャンブル依存が疑われる人の数は、**平成25年度で4.8%**と推計されています。 今後、日本のギャンブル依存の問題を考えるうえで、さらなる実態調査が必要と考えられます。

併存疾患について

ある病気が他の病気と一緒にみられる場合に併存疾患と言います。 ギャンブル依存には精神疾患の合併が多く、特にニコチン依存を含む物質使用障害、アルコール乱用や依存症といったアルコールの問題、うつ病などの気分障害、パニック障害などの不安障害が多いとされています。 合併する頻度は調査によっても異なりますが、11件の調査をまとめて解析した論文によりますと、

  • ニコチン依存が60%
  • アルコールや薬物の問題が58%
  • 躁うつ病を含む気分障害が48%
  • 不安障害が37%

などとなっています※1。

一方、アルコールや薬物に問題のある人にもギャンブル依存が多いとされていて、31件の論文をまとめて解析した調査によると

  • ギャンブルに何らかの問題がある人の割合は23%
  • ギャンブル依存と考えられる人の割合は14%

と報告されています*2。

また、アルコールや薬物の問題のないギャンブル依存の人はアルコールや薬物に問題を抱えたギャンブル依存の人より治療成績が良いなど、ギャンブルの問題とアルコールや薬物の問題が相互に影響し合っていることが指摘されています。 ギャンブルの問題がある人とない人を対象に精神疾患について調査した研究によりますと、ギャンブル依存が発症した時期と合併疾患の発症した時期を比較すると、ギャンブル依存の4人中3人はギャンブル以外の精神科の病気が先にあり、その後にギャンブルの問題が発生したとされていますが*4、約3万3千人を3年間追跡した調査によりますとアルコール依存、気分障害、不安障害、心的外傷後ストレス障害 (PTSD) といった精神科の病気が起こりやすくなることが報告されており*5、アルコールや薬物依存、うつ病といった精神科の病気がギャンブル依存の原因になったり、逆にギャンブル依存がうつ病やアルコールの問題の原因になったりといった形で相互に影響していると考えられます。

このような併存症の問題はギャンブル依存における希死念慮や自殺といった重大な問題と関連することが指摘されていますので、ギャンブルの問題を抱えた人にこれらの精神科の病気が見られないか注意する必要があり、併存症のみられる場合には適切な治療が必要です。

家族ができること

ギャンブル依存が疑われる場合でも、本人は自分自身にギャンブルの問題があることをなかなか認めようとしません。 治療で重要なのは、まず本人自身が、ギャンブル問題があることを理解することから始まります。 そのためには、家族もこの病気について理解することです。すると、ギャンブルの問題に対応しやすくなります。 そして、問題を認めようとしない本人に、治療の大切さや回復が可能であることを伝えることもできます。

また、依存症は「周囲を巻き込んでゆく病気」でもあります。本人だけではなく、家族も長い間ギャンブルから生じる問題の対応に追われて疲弊している状態です。 まず家族自身がこの病気に対応できる力をつけましょう。

当院では、ギャンブル依存の方のご家族を対象とした家族会を行っています。ギャンブル依存に関する勉強会や家族同士の情報交換、対応のポイント等について提供していますので、気軽にご参加ください。

参考文献

    1. Lorains FK, et al., Prevalence of comorbid disorders in problem and pathological gambling: systematic review and meta-analysis of population surveys. Addiction, 106:490-498, 2016.
    1. Cowlishaw S, et al., Pathological and problem gambling in substance use treatment: a systematic review and meta-analysis. J Subst Abuse Treat, 46:98-105, 2014.
    1. Hodgins DC, et al., The influence of substance dependence and mood disorders on outcome from pathological gambling: five-year follow-up. J Gambl Stud, 26:117-127, 2010.
    1. Kessler RC, et al., DSM-IV pathological gambling in the National Comorbidity Survey Replication. Psychol Med, 38:1351-1360, 2008.
    1. Chou K-L and Afifi TO, Disordered (pathologic or problem) gambling and axis I psychiatric disorders: Results from the National Epidemiologic survey on alcohol and related conditions. Am J Epidemiol, 173:1289-1297, 2011.
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