ギャンブル依存症 克服する方法は?家族が注意することは?
ギャンブル依存症とは
ギャンブル依存症は**「ギャンブル障害」とも言います。依存状態になると、多くの場合、2つの問題が起こります。ひとつは「ギャンブルに歯止めがきかなくなってしまうこと」。さらに「借金などの経済的な問題が起こること」です。依存の対象となるギャンブルとしてはパチンコやスロットの他、競馬・競輪・競艇・オートレースなど。それ以外にも、宝くじや株式取引**、FX・外国為替証拠金取引なども歯止めがきかなくなるとギャンブル依存症と呼ばれます。
実は、株式などへの投資などで借金がかさみ、歯止めがきかなくなっている人では、その他のギャンブルをする人と同じ脳の活動になっており、ギャンブル依存症の治療が有効なことがわかっています。2020年度に全国300地点で行われた「ギャンブル依存症」の全国調査で、依存症の人の約70%が最もお金を使っていたギャンブルはパチンコやスロットでした。日本ではパチンコ・スロット店が全国どこにでもあり、いつでも利用できる環境があるため、依存症に陥りやすいと考えられています。
ギャンブル依存症になると…(ある患者さんのケース)
香川県の佐伯徹(さえき・とおる)さんは30年以上もの間、ギャンブルを続け、やめられなくなっていました。最初は、ストレス発散に加えて、ちょっとお金が儲かればいいかなという軽い気持ちでパチンコなどをしていたと言います。しかし、そのうち、大事な予定があっても、使う金額をあらかじめ決めていても、ギャンブルに歯止めがかからないようになってしまいました。
**「『残業している』と家族に嘘をついたり、仕事をさぼったり、とにかく無理に時間を作ってギャンブルに行っていました」**やがてパチンコをするお金に困り、佐伯さんは借金をするようになりました。
「給料の範囲のお金を越えてしまうので、消費者金融から借りるようになりました。それも限度額を超えてしまうと、今度は母親に泣きついて肩代わりしてもらって。そんなことを4〜5回繰り返しました。最終的には1400万円ほど借金を作ってしまったので、これ以上肩代わりできないということで、債務整理をすることになりました」
ギャンブル依存症の特徴
ギャンブル依存症で医療機関を受診する人は20〜30代が中心です。男女比は9対1で男性が圧倒的に多いと言われています。実際にパチンコ・パチスロで100万円単位の借金を重ねている人は多く、競馬では短期間に1000万円以上の赤字に陥ってしまった人、外国為替証拠金取引(FX取引)に退職金のすべてをつぎ込んでしまったという人もいます。さらに、会社の金を横領するなど、犯罪に手を染めてしまうケースもあります。
単にギャンブルが好きな人とギャンブル依存症の人には、明確な違いがあります。ギャンブルが好きなだけの人では**「ギャンブルがしたくても我慢できる」「仕事や家庭生活も続けられる」「負けても深追いせずにやめられる」などの特徴があります。一方、ギャンブル依存症になると「賭け始めると止まらなくなる」「ギャンブルが生活の中心になる」「勝つまで賭けようとする」「借金を繰り返す」**ようになってしまうのです。また、ギャンブルをしていることを家族や周りの人に隠したり、嘘をつくというのも、ギャンブル依存症の典型的な症状だと考えられています。
ギャンブル依存症 発症のメカニズム
(出典)Limbrick-Oldfield EH, et al, Transl Psychiatry, 2017
ギャンブル依存症になると、脳の機能に変化が起こります。その変化によって自分をコントロールできなくなってしまうのです。ギャンブル依存症患者に「ギャンブルをする映像」を見せて脳の活動している部分を調べると、脳が敏感に反応していることがわかります。ギャンブルの映像を見ただけで脳が反応して、ギャンブルをしたい気持ちが抑えられなくなってしまうのです。
依存症になると、脳のある部分が敏感になる一方で、ギャンブルで勝ったときの快感は感じにくくなってしまいます。
はじめは、ギャンブルを行うと「報酬系」と呼ばれる脳の回路によって、神経伝達物質の一種であるドパミンという快楽物質が大量に放出されます。ギャンブルという行動によって、快楽物質という「ご褒美」がもらえるので、何度も繰り返す動機になってしまいます。ところが、ギャンブルを繰り返すうちに、やがてドパミンがあまり出なくなってきます。すると、勝っても満足できなくなります。そのため、ギャンブルをやりたい気持ちは強いのに、いくらやっても満足できなくなり、際限なくギャンブルを繰り返すようになってしまいます。ギャンブル依存症は本人の気持ちや性格の問題ではなく、脳の機能の変化によって起こる病気なのです。
ギャンブル依存症を克服するには(佐伯徹さんのケース)
多額の借金を背負ってしまった佐伯さん。依存症の克服のために頼ったのがギャンブル依存症の自助グループでした。
「最初は、ギャンブルに行く時間を自助グループに参加することでつぶすという目的で参加しました。しかし、自助グループでは、誰にでも相談できないようなギャンブルの借金、家庭内の問題などを聞いてもらえて、自分にはかけがえのないものになっていきました。そんな仲間には、ギャンブルをしたとは言いたくないので、ギャンブルに手を付けないという固い決意が生まれるようになりました」
佐伯さんは現在、病院で依存症の人をサポートする仕事に就いています。
ご自宅の近くの自助グループ・回復施設については、保健所や精神保健福祉センターに相談ください。
※NHKサイトから離れます
回復するために本人や家族が気を付けること
まず、ギャンブル依存症の患者本人がするべきことは、**「ギャンブルを完全にやめる」ことです。パチンコはやめるけど、他のギャンブルを続けるというのは危険です。同じような興奮から、依存症が再燃する可能性が高いからです。また、「借金などの問題を弁護士や司法書士などの専門家に相談する」**ことも重要です。借金を整理することで、取り立てがなくなり、ギャンブル依存症から回復したという人は多くいます。
一方、家族は**「借金を肩代わりしない」**こと。安易に肩代わりすると、患者本人がお金の問題に向き合えなくなります。すると、またギャンブルしやすい環境になり、いつまでたっても依存症から回復できなくなってしまいます。借金については、本人が主体となって問題に向き合い、専門家に相談することが重要です。
また、**「本人を責め過ぎない・問題解決に協力する」**ようにしましょう。嘘をついたり、日常生活を軽視するのは、依存症の症状ですが、そのことで本人を責め過ぎると、症状の悪化につながることもあります。問題について話し合える関係を作り、相談の場や自助グループに一緒に参加するようにします。
ギャンブル依存症の治療
本人が精神的に追い詰められているような場合は、一度、医療機関を受診したほうがよいでしょう。医療機関では、**うつ病など他の病気が併存していないかを調べます。**例えば、パーキンソン病の薬を服用している人では、薬の影響でギャンブル依存症になることがあります。
治療としては、**「カウンセリング」「認知行動療法」「入院治療」**が行われます。
カウンセリングでは、医師などの専門家と依存症の患者本人とが1対1で対話し気分や悩みについて話し合います。
ギャンブル依存症治療の中心となる方法は認知行動療法です。医師などの専門家と患者数名で話し合いを行い、ギャンブルをしたくなったときの対処やギャンブルのメリット・デメリットなどについて考えていきます。その過程で、自分はなぜギャンブルがしたくなるのか、どういうときなら我慢できるのか、など、自分の考え方や行動パターンの偏りを見直し、それを少しずつ修正していきます。このような治療には2020年から健康保険が適用されるようになりました。
入院治療は、ギャンブル依存症が重症化してしまったときの治療です。患者本人が環境を変えることで治療に集中し、健康状態の回復と生活の立て直しをはかります。
これからの依存症対策
過去の海外の事例を見ても、カジノが開業すればギャンブル依存症患者が一定数出ることは避けられないと考えられます。早期発見やその後の診療体制の整備とともに、予防も含めた対策が求められます。大阪府・大阪市はIR開業に向け、医療機関の情報提供などを行う**『大阪依存症センター』(仮称)を設置する予定です。そこでは治療だけでなく、金銭や対人関係の悩みにも対応することが検討されています。また、カジノ施設内での対策として、日本人の入場回数を週3回、28日間で10回までと制限します。外国人は入場無料ですが、日本人からは1回6000円を徴収する**ことも合意されています。
海外では、子どものときにカジノや競馬場に行った経験があると、ギャンブル依存症になりやすい傾向があることが報告されています。大人がギャンブルの場へ子どもを連れて行かないこと、学校などの教育現場でギャンブルや依存症についてしっかり教えることも大切です。